
本当のスタート地点

2008年春、開発チームがプロトタイプを完成させ、量産化検討のフェーズに入ろうとしていた頃、プロモーション計画について議論は紛糾していた。まだ市場にない、誰も使ったことがない製品をどうやってプロモーションしていくのか。徹底的な市場調査が繰り返され、顧客層が特定されていく。
新しいマーケティング手法
「情報に貪欲で自己実現欲の強い人がターゲットになるだろう。ではそういう人にどうやってUPと出会っていただくかが課題だった。」(宮川)
市場開発を担当した宮川嘉明は、ブランディングと顧客動線を踏まえたコミュニケーションが重要だと考えている。その表れの一つが、ネットでの限定販売と実際に商品を体験できるタッチポイントの設置である。このような新しい商品の顧客層であれば、ネットでの情報収集に熱心だろうという判断と“よく商品を理解して買って欲しい”という想いが込められている。
UPは、まったく新しいカテゴリーの商品である。誰も体験したことがない商品の良さを知ってもらうためには、実際に物を見て触ってもらうことが必要である。そのための拠点として、UPLABというタッチポイントが設置された。販路をネット限定に絞ることは、売上を至上と考えれば、厳しい選択である。だが、それ以上に今回発売する商品はただの流行に終わらせず、新しいスタンダードにしたい。そのためには販路を絞ってでも顧客層に商品をしっかりと理解してもらうことが、やはり重要だと考えたのである。
「MEDIA PORT UP」の誕生
また、この頃、同時に周辺サービスの開発も進められていた。“UPLINK”である。UPLINKは、商品購入者に対するビデオコンテンツの配信サービスである。ニコンがジャンル別に用意したビデオコンテンツが、ストリーミングまたはダウンロードにより視聴できる。
ニコンがUPLINKを展開することの意義について加藤は語る。
「コンテンツサービスと商品は欠かせない両輪です。新しい商品が出てくると、それに合ったコンテンツサービスがあるかもしれません。今後、私たちのところで、そのようなコンテンツを集めて配信する、そのような仕掛けができたらよいと思います。」
2008年7月、正式な商品スペックが確定した。商品名も「MEDIA PORT UP」と正式に決定した。UPには、Ultimate Player、U(your) Partner、U(your) Powerなどの意味がある。そこには、“wearable”であるUPはいつでも人に寄り添い、趣味に勉強に仕事にUPを使う人の生活をサポートするものでありたいとの想いが込められている。
加藤が遠距離通勤の電車の中で、現在のUPにつながるものを着想してから実に8年の歳月が経過している。この時間を全く新しいカテゴリーの製品を生み出す期間として、長いと見るか短いと見るかはそれぞれの立場によって異なるだろう。だが、確実にUPという新しいカテゴリーは切り拓かれた。UPの開発はまだ終わっていない。これからも新しい形のUPが生み出されてくる。いま、UPはスタートラインに立ったばかりなのだ。
