
より具体的な姿へ

映像カンパニーで商品化が正式に決定してから、開発はさらに具体的な部分に突入していった。デザインは概ね、黒を基調としたカラーリングで、形状はアーチ下部がシャープに引き締まったエルゴアーチフォルムに固まりつつあった。このころに生まれたデザインコンセプトが“先進・上質・シンプル”である。製品は当初の未来的なデザインからは様変わりし、先進的ではあるが大人が日常装着していても違和感のない、落ち着いたデザインになった。製品仕様に関しては、リトラクタブルメカ、密着複層式DOEレンズ、オールインワンなど、基本となる特長は固まっていたが、詳細部分については、検討が続いていた。
コミュニケーションツールとして
特に加藤がこだわったのが、コミュニケーションサインだった。コミュニケーションサインとは、動作変更などの操作を行ったときに、ディスプレイアームやディスプレイ正面のLEDが点灯し、周囲にメッセージを伝えるという機能である。
「人間のコミュニケーションの基本は、フェイス・トゥ・フェイスだと思います。人間の生活に電子機器が入ってきたときでも、自分の持っている情報をうまく相手に伝えたり、情報を共有したりできたらいい。UPからサインを送れることにより、機械をつけていても、より本来の人間のコミュニケーションに近づいていけるのではないかと思います」(加藤)
さらに、新商品は無線LAN機能を搭載することにした。無線LAN環境があるところであれば、ネット接続し、ストリーミング映像やWEBブラウジングなどを楽しむことができる。
「元々UPは、電車の中で時間を有効に使いたいという思いから始まっていますが、暮らしの中での余白時間は、会社の昼休み、取引先との打ち合わせへの移動中などたくさんあります。UPを身に付けていれば、いつでもどこでも新しい情報にアクセスできるよう、私のなかでは無線LAN機能の内蔵は必須でした。」(加藤)
これから世に送り出す商品はパーソナルな機器ではあるが、個人に埋没するのではなく、コミュニケーションにこだわりたい。この発想は、“iからUへ”という後のプロモーションコンセプトにもつながっている。
安全性の確保
ここで、一筋縄ではいかない事態が発生する。バッテリーの問題だった。一体型を選択したことにより、バッテリーも頭部に装着されるようになるため、安全性への配慮は重要課題となっていた。当初は小型化・軽量化に優れるリチウムイオン充電池の搭載を予定していた。しかし、一方でリチウムイオン電池には加熱による事故が発生していた。最終的な判断は、充電池としては安全性の確立されているニッケル水素充電池を採用し、同時に市販の単3形アルカリ電池などの使用も可能にするという選択だった。
「実は設計上は、電池の変更が一番の問題でした。大きさの問題とデザインを崩さずに電池を簡単に交換できるということをクリアしなければいけない。安全に関して、品質保証部門とはかなり喧々囂々の議論をしました。」(千秋)
結果として、ハウジング部分はそれまでのデザインからは若干厚くなったが、全体のフォルムとしてはむしろ落ち着きが出たとも感じられるものに仕上がっていった。市販の電池を使えるため、充電忘れなどにも対応できるようになったメリットの方が大きくなった。
