
具体化する開発とわき上がる違和感

2004年6月、加藤が着想した“ETD”は“WAVP(Wearable Audio Visual Player)”という名称で正式な事業化案件として承認された。これにともない、社内公募により人員の増強が行われた。UPに求められる技術は、幅広い。元々ニコンが得意とする光学技術はもちろん、音響技術、メカニカル設計、ユーザーインターフェイスの開発など、各分野の専門家がプロジェクトに集まっていった。
具体的なデザインが考えられる中、万人にフィットさせるための可動部分ではその機構や可動範囲などに試行錯誤が繰り返された。当初は、ディスプレイアームの収納は電動が検討されていた。センサーでアーム位置を検出し、位置決め制御するという方式だ。しかし、モニター調査の結果、せっかく電動で位置決めしても、最後はユーザーが自分の手を使って位置を調整してしまうことがわかり、この方式は見送られた。次に検討されたのは、クリック留めである。加藤たちは、調整が簡単で、またユーザーが自分の位置を覚えやすくするという理由から、可動部の全てをクリック留めにすることを検討した。しかし、最終的に落ち着いたのは、アームを目の前に持ってきた後は、ユーザーが自由に調整できるようフリーストップを採用するということだった。メカニカル設計を担当していた千秋謙三は次のように語る。
「上下とおおまかな前後の調整はクリックで留まるが、最後はヘッドホンをかけたまま指2本で調節できるのが、一番自然だろうということです。」(千秋)
わき起こる違和感
この頃の開発には、UPの構造に関して安全性の検証にも大きなウエイトがおかれていた。例えば、UPを装着した状態でディスプレイアームが何かにぶつかったとしても、ディスプレイは眼に当たるのではなく、よそに逃げるような構造になっている。また、ディスプレイにはアイガードというカバーをかぶせることにより、ディスプレイが顔面に接触しても、眼球には当たらないよう安全性が確保されている。
こうして、開発チームは“wearable”に必要な要素技術や設計ノウハウを蓄積しながら、着実に成果を上げていった。UPの製品化は順調に進んでいるように見えた。しかし一方で、加藤を始め、開発スタッフの中には何かしこりのようなものが広がっていた。
「何かが違うのではないか」
加藤は違和感を覚えたのだという。当時進められていたデザインやコンセプトは間違ってはいないはずだった。先進的かつ革新的で、これまでにない製品。ニコンの光学系の技術やノウハウも存分に生かされている。しかし、その開発を詰めていけば行くほど、違和感のようなものは広がっていった。
この後、UPの開発は大きな転換点を迎えることになる。
