
構想を具現化していく

プロジェクト発足当初のメンバーはわずか4名。4人で出来ることは限られていたが、動きは速かった。4人はまず、ディスプレイの部分だけの試作を行い、“片方の目で見る”ということが、具体的にどのようなことなのかを確認することから始めた。当時制作された試作品は、プレーヤー部分とディスプレイ部分が分離したセパレートタイプのものだった。その頃から、デザイン担当としてプロジェクトに参加した赤羽純は、初期のデザインを次のように語る。
「最初のデザインは、ディスプレイを頭の後ろに回して固定するというものでした。眼鏡とヘッドホンの中間のような感じですね。この後もデザイン案、モックアップを含めていろいろなバリエーションを考えていますが、最初の頃のものはどちらかというと、SF的なデザインが多かった気がします」(赤羽)
さらに加藤たちは、デザインの検討に加え、ディスプレイ部分をメカ的にどう固定するか、ディスプレイの非使用時にそれをどう退避させるか、さらには光学的に必要な性能はどのレベルか、また必要な機能は何か、といった技術的な洗い出しを進めていった。
基幹技術・DOEレンズとの出会い
二コンがAVプレーヤーという新しいカテゴリーでの製品化を実現するためには、ニコンとしての差別化技術、ニコンの遺伝子が必要だと考えられた。それは、光学系とメカに他ならない。メカに関しては、ディスプレイを目の前からどのように移動させるのか、使わないときの状態はどうあるべきか、ディスプレイはどのように固定すればよいのかなど多方面での検討が続けられた。電動でディスプレイが退避する機構なども考えられた。様々な発想に基づいて、このころ特許も多く出願されている。
また、光学系に関して、極めて重要な出会いがこのころに起こっている。当時、加藤の上司のところに出入りしていたレンズ技術者だ。この縁で加藤は、社内の別の部署で開発が進められていたDOE(Diffractive Optical Element:回折光学素子)について、最新の知見を得ることとなる。ETDに最適な小型で軽量な新しい光学系を模索していた加藤にとって、“DOE”との出会いは、UPの開発に於いて欠かせないポイントだったと言える。これまでのやり方で、AVプレーヤーに求められるクリアな映像を実現しようとするとレンズは大きく重たくなってしまう。これでは、ETDの光学系としては具合が悪い。しかし、DOEを使用すれば、高画質と軽量化を同時に実現できるかもしれない。
加藤は、DOEの可能性を見抜き、その後DOEの開発グループと積極的に連携をとっていく。DOEレンズは、現在まで多くの開発成果や改良が加えられ、UPを支える技術の一つとなる。UPで使用しているDOEレンズは、従来型のレンズの1/7という軽量化を達成しながら、92万画素という高精細のクリアな映像を実現している。
こうしたなか、加藤たちは周囲へのプレゼンテーションを進めていった。その過程で、人が身につけられる“wearable”というコンセプトが自然に固まっていった。
